奇珍がイビせる街をさまよふ2

僕はうんざりした気分でそう言った。彼女の口調には僕を苛立たせる何かがあった。もっともそれを別にすれば、彼女は僕を少しばかり懐かしい気分にさせた。古い昔の何かだ。もっとごくあたり前の状況でめぐりあえたとしたら、僕たちはもう少し楽しい時間を過ごせたかもしれない。

村上春樹「風の歌を聴け」より

私はほぼ毎日、日記を書いているのだが、長いのでこの手記には或る日の一部を抜粋したものを抄訳で紹介したいと思う。なお、固有名詞は全て伏せ字とさせて頂いた。また、地名に関しては全てN地区という呼称で統一させて頂くことをご了承されたい。

今回の抜粋は或る日の「夜さんぽ」を紹介したいと思う。この日は東京都八丈島が台風の暴風圏入りし、気象庁の定点観測カメラウォッチャーの諸兄が完徹をして見守って居た。そんな日の早朝未明の模様をお届けする。我が街、N地区はというと、時折、雨というほどでもない非常に小さい水滴がパラつく程度で、湿気もなく、涼しくて歩きやすかった。

追伸。その後、6時20分に気象庁が東京都八丈町に対して大雨特別警報(5段階ある警報の最上位警報)を発表。同7時、八丈町付近で記録的短時間大雨(約100ミリ)。伊豆諸島南部では線状降水帯が発生。その後、16時30分頃には東京都心の空で雲の切れ間から日が差す「天使のはしご」と呼ばれる仏像の背後にある後光のような現象が見られた。

2025年10月9日(木)N地区の早朝は曇り時々薄い雨

2時18分

コポ庵を出発。

2時24分頃

※※商店街の中を歩いて居たら※※通り方面から若女「(私が)こっち来てる!(裏声)(大声)」若男「Cu saa!(大歓喜大爆笑)(笑)(笑)(笑)」と大声を出して超絶嘲りはしゃぐ。特定には至らず。

2時38分頃

※※※ショップN地区店辺りで中年男が「Cu saai!」と大声を出した。特定には至らず。

2時39分頃

※※駅とその駅に隣接するバスロータリーとの間で若男2人組がA「Cu sai(早口)」とさえずったあと続けてB「ヤバいんじゃない?。(私の)日記に書かれるのは」A「関係ねえ!(笑)(笑)(笑)」などとさえずった。特定には至らず。

2時46分頃

※※※※※(建物)辺りまで来たら私の背後で「Cu saai(棒)(豚鼻声)」とさえずる中年男有り。特定には至らず。

2時51分頃

※※※※※N地区※丁目店そばのバス停のベンチに座って私が来るのを待ち構えて居た若い男女2人組の男の方が彼女と会話をしている途中だったのにもかかわらず私が通過する瞬間に「クスッ!(大歓喜)(笑)(笑)(笑)」とさえずって超絶嘲りはしゃいだ。

2時59分頃

私のマンション(折り返し地点)到達。これより帰庵スタート。

3時02分頃

私のマンションがある歩道の対抗車線側歩道を歩いていると、※※※※※N地区※丁目店の近くにあるバス停に先ほどの若い男女2人組が今度は立って居て、そのなかに太った中年女が1人加わって合計3人組に成って談笑をして居た。そして、私が彼らが居る辺り(もちろん、私が歩いているところは彼らから見て対抗車線側歩道であるが)を通過するタイミングでその中年女が「クスッ!(笑)、クスッ!(笑)。大丈夫大丈夫(ニヤニヤ)。クスッ!(笑)、クスッ!(笑)」とさえずって「笑い仮面」顔で超絶嘲りはしゃぐとその一緒に居た先ほど邪叫をした若男が声を出してスーパー超絶嘲りはしゃいだ。

3時12分頃

「(仮)N地区※丁目土地利用計画」というマンション建築現場側歩道を歩いて居たら対抗車線側歩道から中年男が「(私が)通った通った(笑)。クスッ!(笑)」とさえずった。特定には至らず。

3時22分頃

※※※ショップN地区店辺りまで来たら私の背中の方から若男が「あれ?、(私が見当たらない。あ、居た。)。Cu saa!(棒)」と大声を出した。特定には至らず。

3時27分頃

※※橋交差点(※※通り)辺りのアスファルトの再舗装工事をして居たところの交通誘導員(若男)が誘導している車両なんて何処にも居ないのに「くそーい!、そーいそーいそーい!(棒)。くそーい!そーいそーいそーい!(棒)」と大声で連呼して交通誘導をする振りをした。

3時34分頃

帰庵。

メモその1

靄(もや)の立ち罩(こ)めた入江の海を港へ帰る他のヨットが唯一艘走っている。追いつこうとして竜哉は帆綱(シート)を締めると梶棒(テイラー)にくくりつけ、それを足に挟んでウクレレを取った。靄はますます濃くなって行く。弾きながら彼は唄っている。彼はその繰り返し(ルフラン)がたまらなく好きだった。英子は黙って聴いている。柔らかい少し嗄(しわが)れた声だった。

石原慎太郎「太陽の季節」より

メモその2

こんな小説を書いたからって、俺が変わっちゃってるだろうと思わないでくれ。俺はあの頃と変わってないから。

村上龍「限りなく透明に近いブルー」より

メモその3

「例えばスポーツ中継やオーディション番組を観ていて、特定の誰かを追いかけることを執着と呼ぶ?」「事件の被害者がネットで実名拡散されることを、執着と呼ぶ?」「凶悪犯罪者のWikipediaについ目を通して、気付くとその半生にやたら詳しくなってしまった何でもない夜のことを執着と呼ぶ?」「そんなの、人が物語に触れるごくオーソドックスな欲求なんじゃない?」って。モモの場合はそういう追跡(トラッキング)の対象が、すぐ近くにいただけだった。

安堂ホセ「DTOPIA」より

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